潮風ラガーなひとめぼれ
執筆時間:15分 テーマ「シンプルな潮風」 盛り込み指定ワード「ラガーマン」
これは現在進行形なんだけど、強烈な体験だから思い出話みたいに感じる話。
うちは親戚中でラガービールを飲んでたから、ラガーマンってのはビールの宣伝をしているお兄さんのことなのかな、などと思ったものだ。
それがムキムキのスポーツマンのことを指す言葉だと知った時には、なんだかショックを受けたほど。
そう、私が憧れるような、好きになりそうな男って、さわやかな、なんだかシンプルな潮風でも似合いそうな……一緒に海岸を犬の散歩して歩けるような人だって思ってたのに。
「あ――。落としたよ、これ」
廊下を歩いていたその人が、筆箱を落としたのを、何気なく拾ってあげて。
その筆箱が、ファンシーな、お人形さん方の筆箱だったのにさ。
それがもう、ミッチミチに、顔も体の形も、中に押し込まれたペンの形に歪むほど、ハードな使い方されていてさ。
えって顔をあげて、マジマジと持ち主の顔を見たら。
ものすごーく背格好の立派な……ラガーマンみたいな肩幅した女の子で。スカートはいてなかったら普通に、スポーティーなお兄さんだと思う程で。
ひどくない?
何がひどいって、筆箱の使い方も、そんな爽やかじゃない人にも、しかも女の子で――どっちにも、瞬間、心がときめいて、ひとめぼれしてしまった私が。
今度、お友達にならないかって声をかけようと思うけれど、いやにドキドキしちゃって話しかけられないかも。ひとめぼれって、何も恋愛にだけ起こるものじゃないよ。なんていうかな。その人そのものに惚れ込むってこと、あると思うんだけどな。関係性が友情になるのか恋愛になるのか、それとは別の話だと思うの。
あの子、遠くから見てるだけでも、うなじとか綺麗なんだ。それで持ち物はファンシーなものが多いのに、使い方が、合理的っていうか、とにかく使い倒してるって感じで。
なんだかそれが好印象なんだよね。かわいいものに囲まれてる自分が好きなんじゃなくて、本当にかわいいものが好きで使いたいんだな、って感じに思えて、それが私の心をくすぐるの。
他にも、指が長いし。彼女は、体格が大きいのを気にしてるみたいだけど、でも私は彼女のその部分も含めて好ましい。ギャップがあるってのに弱いのかな、私。
今度。潮風のふく海岸に遊びにいきたいな。大人になったらラガービールを飲もう。
どんな形でもいいから、私の世界に彼女がいてほしいなあ。
そんなふうな、人の好きになり方も、時にはあるよね。
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