世界も一変するほどの

執筆時間:15分 テーマ「腐った王」盛り込み指定ワード「頭痛」

 音楽と共に、バサリ、と床に本の置かれる、軽い音――。
「そは深淵に横たわり闇の静寂に腐りし王なり。我が復讐を遂げる日まで、汝、我の心臓の音と共にあらん。我は汝の潰れたる眼(まなこ)のために我が眼球を捧げん、また汝の欠落したる手足のために我が四肢を捧げん、現れ出でよ、来りて我に応えよ――!」
 カビと湿気の混ざった臭いが立ち込め、召喚者の鼻をついたが、復讐に燃える彼はそのようことを気にも留めず。もはや朽ち、ほんのわずかな背表紙と紙きれだけを残すばかりとなった魔導書をにらみつける。
「……貴様が余の眠りを妨げし者か」
「ああ、そうだ」
 ブウウンと蠅の羽が震えるような、無数の振動を伴った声が――魔導書から発せられた。
「姿を現せ」
 召喚者は怖気ずくこともなく、凛とした姿勢で命令する。
「できぬ」
「……なぜだ。我の目と手足、心臓では足りぬと?」
「もはやそのようなものは余には不要なのだ」
 召喚者ははじめて感情を表す。下唇を噛んだ。
「さすが、強大な邪神は要求まで大きいときた――。いいだろう、我の復讐を手伝うというのなら何でも与えよう! 死後の魂までも、汝の牢屋に繋ぐが良い!」
 魔導書はコホコホと咳き込んだ。
「頭痛薬をくれ」
 召喚者はもう一度言った。
「死後の魂までも、汝の牢屋に繋ぐが良い!」
「いや、もうそういうのいらないから、頭痛薬くれたら手伝ってやるから」
 なるほど、ブウウンと蠅の羽が震える音は、ズキズキとした頭痛をこらえてたかららしい。などと、召喚者は理解には及んだが、納得はいかなかった。
「いや、いや、あのな、俺の復讐っていうのはそんな軽い代償じゃなくて、なんかもっとこう、周りが『アイツはここまでして……どうしてアイツの苦しみに気づいてやれなかったんだ』ってなるようなそういうやつで」
「頭痛薬くれないなら帰る」
「汝の頭に狙いを決めて、ズツウ・ブロック!」

 数分後、無事、頭痛の収まった深淵に横たわりし闇の静寂に腐りし王は、哀れな青年の復讐劇を完遂したのだった。
 あなたの頭痛は、どこから? 世界もあっという間に一変する、ズツウ・ブロックでおなじみの、コバナシ製薬がお送りしました――(チャララーとジングルが流れる)。