性癖SS

 偉大だった父親の一周忌を迎える間もなく、母親も後を追うように亡くなってしまった。広大な館は光を失い、後継者争いをする親族の数多の嘲笑とは対照的に――少年はひとりぼっちになる。

性癖SS

「せいへき」
「はい、わたくしめ、坊ちゃんの父君や坊ちゃんのような金髪赤目の高貴な方にお仕えするのが性癖なのです」

性癖SS

「……ひとつ聞くが我が家はもしかしてお湯も沸かせないほどに困窮しているのか」
「皮肉系で来ましたか、それはそれでナイス切り口ですが」

性癖SS

 亡くなった父親と母親の肖像画が絵描きによって届けられ、それはメイド長の指示で談話室にかけられた。丁寧に磨かれた暖炉の上にかけられ、片方は気高く、片方は柔和に、面影を永遠に留められていた。

性癖SS

 節約できるものならした方が良い、だから就寝前の湯浴みは今後はせいぜい水浴びぐらいで良い、と小さな主は主張したが、メイド長は「入浴は毎日していただかなければ」と頑として譲らなかった。

性癖SS

 それは、午前のティータイムに差し掛かろうかという時だった。
「伝書鳩が来ました」

性癖SS

 そこには何一つとしてケチのつけようもない、午前十一時のお茶イレブンシーズのもてなしが並んでいた。

性癖SS

「……あ」
「坊ちゃん。失礼いたしました、坊ちゃんの気配に気づいて、坊ちゃんがドアをお開けになる前に掃除を完了させるべきでした」

性癖SS

「兄上!」
 黒髪に赤目の少年が、嬉しそうに駆け寄ってくる。

小説,性癖SS

「……帰るぞ」
 玄関ホールの方に出て溜息まじりに言えば、メイド長が寄ってきて外套を着せ掛け、帰り支度を手伝う。